フィルムの「濡れ性」とは?表面張力・接触角・ダイン値の基本
水をはじくレインコートと、水が広がるガラス。
どちらも液体が触れているのに、見た目が異なるのはなぜでしょうか。
フィルムの塗工や印刷、ラミネートでも同じように、液が均一に広がる場合とはじかれる場合があります。
こうした現象を理解するための基本用語が、濡れ性(ぬれ性)です。
今回は、表面張力、表面自由エネルギー、接触角、ダイン値の違いを、工程での使い方と合わせて解説します。
「濡れる」とは液が表面に広がること
液滴をフィルムの上に置いたとき、丸い形を保つこともあれば、薄く広がることもあります。
一般に、液が広がりやすい状態を「濡れ性がよい」、はじかれやすい状態を「濡れ性が悪い」と表現します。
塗工では、塗液が基材表面を十分に覆うことが必要です。
濡れが不足すると、塗り残しや液のはじきが生じ、外観や膜の連続性に影響する場合があります。
ただし、塗工欠陥には粘度や流動、異物、乾燥など別の原因もあるため、濡れ性だけで診断することはできません。
表面張力と表面自由エネルギーは何が違う?
表面張力は、主に液体の表面が小さくなろうとする性質を示す量です。
水滴が丸くなろうとする様子をイメージすると理解しやすくなります。
一方、固体であるフィルムの表面の状態を表すときには、一般に表面自由エネルギーという言葉が使われます。
液体と固体が接したとき、実際の広がりやすさは液体側と固体側の性質、さらに両者の界面での相互作用によって決まります。
そのため、「フィルムの数値が塗液の表面張力より高ければ必ず密着する」という単純な判定はできません。
濡れ広がりと、乾燥・硬化後の接着強度は別に確認する必要があります。
接触角を見れば何が分かる?
接触角とは、液滴が固体表面に接する部分で、液滴の輪郭と表面がつくる角度です。
同じ液体・同じ測定条件で比べたとき、一般に接触角が小さいほど液は広がりやすく、大きいほど丸まりやすくなります。
例えば、水を使って異なるフィルムを測ると、水に対する濡れ性の違いを比較できます。
ただし、水で測った接触角が小さくても、実際に使う塗液でも同じ挙動になるとは限りません。
塗液には溶媒、界面活性剤、樹脂などが含まれ、表面張力や流動特性が異なるためです。
ダイン値とは? 数字の意味を正しく知る
現場でよく使われる「ダイン値」は、試験液で測定したぬれ張力を指すことが一般的です。
単位として「dyn/cm」が使われ、数値上は「mN/m」と同じ大きさです。
フィルム表面に段階の異なる試験液を塗り、液が一定の状態を保つかどうかを観察して、濡れの指標とします。
ISO 8296:2003はプラスチックフィルムのぬれ張力測定方法を定めており、ASTM D2578-23はポリエチレン・ポリプロピレンフィルムを対象とする方法です[1][2]。
ここで大切なのは、ダイン値は万能な合否判定ではないということです。
測定される値は試験液や表面の状態に依存し、接着力そのものを示しません。
用途に合った管理範囲は、実際の塗液・印刷インキ・接着剤を使った試験から設定します。
なぜフィルムに表面処理をするのか?
ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)などの樹脂フィルムは、未処理の状態では塗液や接着剤が広がりにくい場合があります。
そこで利用されるのが、コロナ処理やプラズマ処理などの表面処理です。
例えばコロナ処理では放電によって表面の化学的な状態を変化させ、濡れ性や接着性の改善を図ります[3]。
ただし、表面処理の効果は材料の種類や添加剤、処理条件によって異なり、時間の経過や汚染、保管条件によって変わることもあります。
処理済みと表示されたフィルムでも、使用直前の確認が重要です。
新人・異動者が現場で確認したいポイント
塗液がはじかれたとき、最初から処理装置の出力だけを上げるのではなく、以下を順番に確認してみましょう。
① フィルムの種類と塗工面
② 表面処理の有無と処理日
③ 入荷時・塗工直前の測定結果
④ 実際の塗液での濡れ方
⑤ 乾燥後の密着性
同じ「塗工不良」でも、液が広がらないのか、乾燥後に剥がれるのかで、調べるべき要因は変わります。
現象を正しい言葉で区別することが、原因究明への第一歩です。
まとめ
濡れ性は、フィルムに塗液がどのように広がるかを理解するための基本概念です。
表面張力は主に液体、表面自由エネルギーは固体表面、接触角とぬれ張力はその状態を評価する指標として整理すると、混同しにくくなります。
さらに応用的な内容として、KCS TECH COLUMN「コロナ処理後なのに塗工ムラが出る?フィルムの濡れ性を工程で切り分ける方法」では、工程別の確認ポイントを紹介しています。